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「ねぇ、保は今のこの国のやり方に納得してるの?」
ヨワインの入ったグラスをくゆらせながらユリが問いかける。
「納得?してるわけねぇじゃん。だけど、納得するもなにも従わないと刑務所で人生のほとんどを過ごすなんてまっぴらごめんだからさ。」
そう言いながらグラスを一気に煽るもやはり今日ばかりはヨワインではなくしっかり酔える普通のワインにすれば良かったかと思う保。
「そもそも、誰なの?この国をこんな風にしているのは?」
「ああ、それは今の内閣になってからだよ。今の総理になってからこんな風に変わってった。」
「今の総理がねぇ…」
「お前さ、まさか良からぬことを考えてないよな?」
「良からぬことは考えていないけどこの国にとって良いことは考えているわよ。」
ユリのこの言葉を聞き保はまた始まったかと溜息をつく。
昔から誰よりも正義感の強いユリは理不尽な事に大して目を瞑るなんてことはいつだってしてこなかった。
学生の頃からおかしいと思うことはいつだって問いただしてきた。例え相手が教師であろうが、有名な不良グループのリーダーであろうが。
力では不利になることがあったとしてもユリにはズバ抜けた知識とーーー
言葉があった。
ユリの言葉に掛かれば例えば闘犬すらも尻尾を愛想良く振りまく小型犬となってしまうくらいだ。
実際、学生時代、手の付けられない不良グループのリーダーを戦闘能力を皆無にするまで言葉で追い込んだのは未だ語り継がれているくらいだ。
だからこそ、ユリは納得出来なかったのだ。
確かに言葉は使い方を間違えれば心臓をえぐるくらいの威力がある。
けれど、同時に言葉は何にも変え難い力ともなるのだ。優しく寄り添うことも出来る。その役割が言葉にはあるとユリは常にそう思っていた。
この国の現状に、無闇に取り締まってもそれは上辺だけの解決であって言葉が持つ本来の良さまで失われるのであれば本末転倒である。
ユリはその事実に心の底から嫌気が差した。
今回、五年ぶりに帰ってきたのは自分にとってやるべき事があるからじゃないか、そんな思いと同時になんとも言えない高揚感をユリは実感していた。
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