_3年前

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 最初は不意打ちだったため、何の対策も取ることができなかったが、次に鴉夜が訪れた時には冷静に出迎えることができた。この時間を稼げたことこそが神の御心、そう信じられた詩乃のことを、最早鴉夜は信仰がないとはみなさなかった。 「……それでは、一つだけ問うわ、音戯詩乃。この結界を支えるあなたの信仰に疑いはない――では、天の神がこの結界の撤去を命じれば、あなたは従うかしら?」 「――」 「そこで疑問を感じるのであれば、あなたの信仰はその程度のもの。こんなに強い結界の主ではたり得ない。さあ、答えてくれる?」  今まで神は、紅い瞳の天使を通して詩乃と娘を守ってくれた。しかしこれからも、御心がそのままであるとは限らない。  それは鴉夜に言われるまでもなく、詩乃が自らに何度も問うたことだった。  今この一時、詩乃にとって神が都合良い存在だから信じるのか。結界を守るのが娘の祝福のためならば、それは詩乃個人の利得に過ぎない。  確かに現時点では、結界を守ることが詩乃の信仰で、詩乃が神に仕える証だ。その信仰の形を、もっと純粋にせよとなったとしたら、ヒト喰いカラスはどんな答なら納得するだろうか……。  あの日は月も見えない雨の夜だった。  その夜、娘と夕烏の寝顔を見ながら考え続けた想いを、詩乃はゆっくりと鴉夜に答える。 *
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