_水無月

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 そうしたわけで、苦肉の策として、偶然出会った「悪魔を殺す悪魔」と詩乃は契約をすることになった。既にツバメという相方がいるときいたが、契約には支障がないらしい。  悪魔と契約するなど、信仰者としては最大の(あやま)ちだろう。しかしその悪魔には、何故かかつての紅い瞳の天使の影が見え隠れし、さらには夕烏にそっくりな気配があるのだ。  これは悪魔の罠なのか、それとも神の測り知れない配剤なのか。奇跡に思える出会いの中で、詩乃は悪魔の少年の手を取ってしまった。  悪魔は一通り詩乃の事情を知ってから、いつものように放課後に集まった聖堂のオルガンの横で、平然と尋ねてきたものだった。 「それで、秩序の管理者とやらが二度目に来た時には、詩乃サンはどう答えたの?」  何故かこの悪魔は詩乃から、言霊による聖なる力の使い方を教わっている。  それは悪魔も「神」の使徒対策だという。今後ももし何かあれば匿ってくれと頼まれている。 「結界を断て。言ってみれば娘の命を差し出せって時に、詩乃サンはどう応えるのかな。詩乃サンが教えてくれた旧約聖書では、息子の命を神に差し出そうとしたお父さんもいたよね?」  酷薄な問いを平然と言い出す悪魔の少年。学生服によく合う黒髪と鋭い目鼻立ちはとても整い、変声期はないという声が中性的で、やはり何処か天使を思わせる相手だ。  現在進行形で悪魔は、黒い翼を持つ「神」の使徒と睨み合っていて、その使徒はおそらく鴉夜の後継者だと言った。世の中は狭い、と詩乃は溜め息が出た。
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