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質問に質問で答えることになるが、詩乃はどうしても気になって返してしまった。
「貴方ならその場合、どうすると思う? 大事なものを差し出すように、信じる相手から言われた時は」
「オレの場合? 悪魔なんだから、断るに決まってるし」
「本当にそうかしら。それならどうして貴方は、大切な相手を沢山失っているの?」
契約を交わした関係上、詩乃には悪魔の記憶がいくつか流れてきている。
本当は青銀の髪を持つ青年である悪魔は、紅い瞳の天使を筆頭に、師と呼ぶ男や唯一の叔父にも先立たれている。常に身に着ける黒い手袋と銀の腕輪は師の形見らしい。しかしこの黒髪の少年「翼槞」は、そうした記憶を遠ざける仮面の代理人だった。
「詩乃サンが言うのは、烙人兄ちゃんのこととかかな。そりゃ、双子の妹の魂を抱え続ければ早死にするってわかってたけど、本人が望んだことだからどーしよーもないし」
悪魔は詩乃に、紅い瞳の天使のことを言いたくないのだ。だから普段より多弁に他のことを話す姿に、詩乃は胸が痛くなった。
悪魔がこの教会に現れたのも、あの天使の結界を見つけたからだろう。そのことにどうしても触れられないほど、大切な存在だったはずだ。
それだけ大切な相手を失っていても、悪魔は何も恨んでいないように見える。何かと過酷であるのがうっすら伝わってくる、己の運命でさえも。
それどころか現在、悪魔を狙うらしき「神」の使徒を助けたいような節すら窺える。鴉夜から呪われた黒い翼を受け継いだその使徒は、夕烏がいる場所にはやはりあまり近寄らないらしく、それはおそらく夕烏に月の類の神性があるからだと悪魔は言った。
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