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「わたしは、試練の時に実際自分がどうするかはわからないし、それで招いた結果を裁くのは主だと答えたの。主の御心は、わたし程度には測り知れなくて……もしもわたしが主を裏切ってしまい、それで裁かれるなら、わたしはゲヘナに落とされる覚悟を毎日してるようなものなの」
詩乃は既に、果てしなく愚かな行動をとり、他者に取り返しのつかない害を与えてしまった罪人だ。毎日贖いをしたいと祈っていて、その祈りは決して揺らぐことがない。
仕えたい心が芯でも、神の御心は詩乃にはわからないままだろう。思うのは詩乃のような罪人を赦してくれるとすれば、神か悪魔だけだろうということ。
「わたしの信仰が変わらないなんて、いつ何時も、弱いわたしには保証できない。それでもわたしは、主に赦されたい……何も見えないお方だけど、主があの雨の向こうにいらっしゃったと、御姿が隠されていても信じていたいの」
あの日は隠れた月に守られた雨の夜だった。
その夜、失わずに済んだ娘と夕烏を抱きしめた温もりを想いながら、詩乃は大切に悪魔に答えたのだった。
雨夜月 了
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