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何事も、始まりには期待と困難を伴うが、終わりの時はあっさり訪れるものだ。
その共同生活は、長くて一年。早くて数カ月と最初から知っていた翼の悪魔は、自ら終止符をうつことにためらいはなかった。
――オレのことは……忘れていいからさ?
撫でるような通り雨の中を、ひとまずの避難所に向かって、頼りない足取りで青銀の髪の悪魔がひたひたと歩く。
応急処置しか施さず、じわりと血が滲む胸元を拙く掴み続ける。自分で招いた結果とはいえ、こぼれる呻きが我慢できない。そうでもしなければ、今ここで、悪魔の体全てが崩れてしまいそうだった。
「いた……い…………」
こんな窮地は、何度も通ってきた。元々死体を無理やり動かす悪魔で、存在の依り所自体、己の体ではなく翼に憑いていた。
だから相方の内に潜む黒い「神」に、挨拶代わりにつけられた傷など、何ということはない。それなのに軋む心臓の痛みが、翼の悪魔には一番わけがわからなかった。
「いたい、よ、これ……ツバメ…………」
相方を救えないことはわかっていた。それなら無理に手を出すことはなかった。それは最早時間の問題で、わざわざ誘いをかけなくて良かった。
出会った時から相方は「神」に隠されていた。あえて「神」の使徒の役目を放棄し、地上の蜜を啜っていただけだ。
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