_承

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 時空を渡る彼は「悪神」の役目を受け、世の「悪」を取り込む黒い翼を持った「雨」の使徒だ。普段は悪魔の相方の内で眠っていたが、通り雨が降る前後だけ必要悪として世界に介入できる。  「悪」にも様々な定義があるが、彼が扱う「悪」は、「己が存在の意味に反する人外生物」だ。人間の目には悪でなくとも、世の存在には全て意味がある以上、それに反するものは神の次元では「悪」となるのだ。  目前の相手の例でいうなら、悪魔はもっとあくどく在るべきだと言える。そうでなくてはヒトの善性がかすんでしまう。  彼が他の「神」に興味を持つのは、その「神」が自らの意味――神性に反し、ヒトに堕ちてしまう時だ。  彼は戯れに他の「神」の望みを暴き、堕落させるために関わることもある。それこそが「悪神」たる彼の意味で、彼を使徒たらしめている。  賢しい悪魔は、人間というヒトに関わりたがる彼の、大きな穴を口にしてきたのだった。 「人間が相手なら、孤独を忘れられると思ってるんですか?」  彼は「悪神」としてしか、世界に干渉――存在できない。  人間以外に関わる場合、破滅させずに付き合うことはできない。もしくは彼自身が悪事を働かなければいけない。そう定められた神性を覆せば、彼も不秩序として狩られてしまう。  彼に関わられても無事なものは、彼程度に壊されない「神」くらいだろう。それほど彼はいない方が良い存在で、それでも決して消えはしない「悪」……誰にも自ら関わるべきでない、世界の闇の掃き溜めだった。  ヒトの暗部に棲む悪魔は、それもまた神の被造物で、ヒトを堕落させるものだという。  悪神である彼と、世に易々と解け込む悪魔は、いったい何が違うのだろうか。
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