_承

4/5

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
 ヒトの心に付け込む悪魔。特にこの青銀の鳥は、ヒトに都合良く、ヒトの願いを叶えるために造られている。 「少なくともアンタは、ヒトの孤独を埋めるための生き物だろ」 「……」 「アンタは人間の望みで造られた悪魔。それなら人間は、神の望みで創られた生き物だとは思わないの?」  ある人間の女性、大事な我が子を失った母が、悪魔の力に縋って我が子と生き写しの悪魔を造った。女性の夫は天上の鳥、言わば天にある国の番人で、聖なる番人の役目も子の代わりである悪魔に引き継がされた。時間という大いなる闇を渡り、どの時空にも雨を降らせる使徒である彼は、悪魔が生まれた事情を調べて知っている。  悪魔は自身の素性を、知られる相手が少ないらしい。いつもは鋭く細められた目が、一瞬ぴくりと開かれたことを、彼は見逃していない。わざわざこの教会に籠った悪魔に、駄目押しとばかりにたたみかける。 「悪魔のアンタは、何を望むの? 有り得るところは、さしずめ天使……誰より近くて、遠い同胞(はらから)かな」 「…………」 「ここは唯一、アンタが望む天使の力が残る聖域。アンタだって、孤独は怖い――そういうことじゃないのか?」  何人も彼に、隠し事はできない。正確に言うなら、その者が知らない真実までも、彼は観に行くことができる。  今このタイミングで、どうして悪魔がこの場所に縋ったのか。  死期を悟った者が何処に向かうか、彼は嫌というほど何度も見てきた。ヒトの本能はほとんど同じで、悪魔も人間も神が造りしものと、これほど思い知る時もないくらいだ。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加