-Imanu'el-

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 悪魔も相方も、神に纏わる「翼」を持っている。本来天上の鳥と呼ばれる使徒――死神だった悪魔は、己の翼の意味を、それを奪った相方に出会って初めて知った。 「命くらい、さ……いくらでも、分けてやる、けどさ……」  この世界には、ヒトは皆、翼を失い天から落ちてきたものだという寓話がある。汚れた命が再び翼を得て天に戻るため、地上での長い試練があるのだという。  それなら元々翼を持つものは、運命を変え、いつでも天に戻っても良い。天上に坐す神に仕え、救われている使徒なのだ。 「オレは……神様の、救いなんて……いらない、から……」  悪魔が現在向かう場所を思えば、それは自身への壮絶な皮肉だ。けれどそれしか、悪魔にはもうできることがない。  あまりに胸が痛み過ぎて、他には何も思いつかない。血の気が足らない脳は回らず、引きずる歩みもほとんど最後の本能だった。 「いたい、よ……ツバメ……」  間違えたのは何処からだったのだろう。そもそも何を悪魔は間違えたのだろう。  この痛みの理由がわからないこと。聖と魔の翼を併せ持つ悪魔には、それだけが神に問いたい苦悶だった。  やがては止まる神の慈悲に濡れる、黒い翼のカラスが(わら)う。  青銀の鳥は翼を納める。悪戯(いたずら)な雨が籠から(あふ)れ、鳥の世界を押し流す前に……。 -please turn over-
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