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青白い両腕を力無く垂らして、片膝を立てて座る黒髪の悪魔は、大怪我をした鶴のようでした。
真っ暗な床に座る悪魔は、同じ床の上で驚いて息を呑む子供の姿に、優しく微笑みかけます。
「オレもつくづく、悪運が強いね。というか――それもアイツの、予定の内かな」
「……?」
いつもの悪い笑顔と違って、今日の悪魔は、とても穏やかに笑っています。
ついつい子供は、悪魔の近くに駆け寄って、心配な気持ちのままに悪魔を見つめました。
「だいじょうぶ……? けが、してるの……?」
このままでは消えてしまいそうなほど、悪魔は弱っています。
いくら悪魔でも、消えるのはかわいそうです。弱ったヒトには優しくしなさいと、子供はお母さんからも教えられています。
困ったように笑うだけの悪魔に、子供は白い袖を掴みながら、精一杯の勇気で尋ねました。
「どうして……かなしそう、なの?」
気位の高い孤高な悪魔が、ここでもしも怒ったら、子供には勝ち目はありません。この真っ暗な場所には、その子供以外入ることはできないのだと、子供は知りません。
誰も助けてくれない場所へ、たった一人でやってきた子供に、悪魔は哀しい顔をしている理由を正直に答えました。
「……神隠し、だよ。大切なヒトが……いなくなったんだ」
「――かみかくし?」
首を傾げる子供に、悪魔は一見、関係のないようなことを聞き返します。
「オマエ、父さんは、いないの?」
「……いないよ。オレは、かみさまのこどもだって、かーさんがいってたもん」
そうか――と。悪魔はそれで、全て納得がいったように、拙い力で片手を上げて、子供の黒い髪をわしゃわしゃと撫でました。
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