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どうしてなのか、子供の心臓が、さっきからどきどきと、うるさくざわめいています。
きっと悪魔が、ひどく弱っているせいです。そしてそれは、子供のせいであるように、何故か感じてしまいました。
「オマエ……しんじゃうの……?」
泣き出してしまいそうな胸を、必死に押えながらきくと、悪魔は、そうだね。と、諦めたような顔で笑いました。
「助からないけど……そうだね。オマエが力を貸してくれたら、延命くらいは、できると思うよ」
永く生きるはずの悪魔の終わりは、これで既に、定まってしまったこと。
それでもまだ、できることはあるのです。膝を立てて隣に座った子供は夢中になって、悪魔に掴みかかりました。
「オレ、どうすればいいの? どうしたらもう、いたくないの?」
お人好しの子供は、目の前に苦しい相手がいると、黙っていることができません。たとえそれが、悪魔であってもです。
悪魔はそれを知っていました。だから何も、遠慮はなしに、子供にそのお手伝いを頼んだのです。
「それじゃ……オレの羽を、オマエが預かってくれるかな?」
大きな灰色の目を潤ませて、悪魔を見上げる子供に、悪魔は最後の力で上半身を起こします。そのまま内緒話をするように、子供の耳元に頭を傾けて、静かに肩を抱き寄せました。
「代わりにオレには――オマエの命を、しばらく分けて」
その囁きは、何も意味がわかっていない子供を、騙して利用するのと同じことです。
それでも悪魔は、ここで力尽きるわけにはいきません。それは悪魔だけの問題でなく、悪魔の相方――「鍵」まで滅ぶ、「鍵」が希み続けた未来だからです。
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