_結

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 必死に頷く純粋な子供の、あどけない柔らかな首元に、悪魔は無様に毒牙を突き立てます。人間の子供の温かさに、悪魔はきっと、泣いていました。  悪魔とその「鍵」以外、誰も入れない影の中へ来た子供は、悪魔自身であったのですから。 ――この世界の外は……こことは時間が、違う所だから。  つい先刻に失って、そして今、戻ってきた心。  腕の中で気を失った子供の、見知った命。その味を知って、悪魔には真実がわかってしまったのです。 ――だからオマエは……『夕烏(ゆう)』、なんだね。  少し前に、この子供と出会ってすぐに、悪魔の中で青銀の髪の「汐音(しおん)」というヒトが目覚めました。思えばそれは、当たり前の結果でした。  夕烏という子供が存在するために必要だったこと。ヒト喰いカラスに連れ去られ、消えてしまった心臓――汐音の行方が、夕烏を見て悪魔にはわかりました。  もしも本当に、全てのヒトを救う神様が、この世に存在するのであれば。  神様はきっと、悪魔のことも、救ってくれようとした。だから悪魔の「鍵」も、その使徒に従ったのだと……。  鳥籠の夢が終わった時、子供は一人で、祭壇の前に眠っていました。  そこにはまるで、初めから何もなかったように、空っぽの祭壇があるだけでした。 「……はれれ?」  子供は何も、気付いていません。くしゃん、と一つ、寒気と共に丸まった背中に、普通の人には見えない白玄(しろくろ)の翼が広がることにも。  それはこれから、子供が大切なヒトと出会うために、必要な翼なのです。  「神」なき世界が沈み、その心が闇に包まれてしまう前に――  優しい子供が、ヒトとして生きられるための祈りを、子供はまだ知る由もありません。 Case.S Imanu'el Lost hexagram. 了
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