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 山科(やましな)ツバメという、吸血鬼の翼を持つ雨男の彼について、高位の悪魔である橘水葵(なぎ)はいつも低く評価していた。  今も朝の狭い部屋でうつ伏せに横たわる彼の金髪を、隣に正座してぺしぺしと軽く叩く。起きませんね、などとうそぶき、同居人の苦笑を買っている始末だ。 「目は開けなくても、声は届いてるから、注意しなよ。ツバメって、そういう奴だから」  同居人の途切れがちでかすれた声に、消え行きそうな疲労が混じっている。  そもそもどうして現在、彼の目も開かないのだろう。同居人と同じ青銀の髪と鋭い蒼の目で、長い髪をまっすぐ腰まで垂らす水葵が、この世界で言えば漢服のような出で立ちのまま、ここ日本に来ていることはわかるのだが……。 「聞いていません。山科燕雨がそんな危険人物であると言われるのは、私には心外です」  人外生物としての強度は、水葵の方がツバメよりも遥かに上だ。虫が危険と言われても象にはぴんとこないだろう。  水葵にとっては主君の位置付けである氷輪汐音(ひわしおん)も、悪魔としては水葵より低位だ。水葵もツバメと同じで、同居人の汐音の従者であるはずなのに、汐音に対する水葵の声色は辛辣だった。 「どうしてこんな弱い魔剣に、貴方ほどのヒトが重傷を負わされるのですか、我が君」
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