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 うーん、と。両手をついて座り込み、動くこともできないとわかる汐音の姿が、倒れている彼の視覚でなく、水葵の目から伝わってくる。  そんな風に、周囲にあるものと勝手に感覚を共有してしまうのが、ツバメの生まれ持った「直観」だ。胸の中央からじわじわと血を流している汐音の痛みも、当然先刻から伝わっている。  その殺傷を汐音が受けた時、ツバメの意識も落ちたとわかった。汐音に命を分けられる従者であるツバメは、源の命が危機に瀕せば、下流の方が枯渇の早いのは道理だろう。  しかしその傷を彼がつけたと、水葵は聞き捨てならないことを口にしている。汐音は今にも死にそうなほど辛いくせに、あははと軽い笑顔を浮かべた。 「まいったね。隙を見せて誘い出そうとしてみたら、思ったより大物だった感じ」 「誘い出す? 貴方が処刑すべき悪魔が、山科燕雨の内にいたと言うのですか」  汐音は悪魔を殺す悪魔という、ややこしい立ち位置の死神だ。汐音も水葵も一見はヒトに見えるように、多くの悪魔は悪魔らしい顔をしていない。だから見つけるには罠も必要だと、過去に汐音が言っていたことがある。  ところが汐音はまるで無責任な様子で、火遊びに失敗した子供の如く、残念そうにふうと息をついた。 「悪魔じゃないのは知ってたけど……オレまで神隠しによばれるなんて、さすがに思わないじゃん?」 「……?」 「まさに、バチが当たったかな。触らぬ神にたたりなし、ってやつ」  水葵も険しい顔で首を傾げているが、彼にも何が何だか、さっぱりわかってくれない。  汐音が嘘をついていないのはわかる。それなのに、何かが致命的に、ツバメの現状把握を阻害しつつあった。
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