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 ツバメは元々、直観の後押しがなければ、そんなに洞察力のある方ではない。他者の感覚――たとえば人の痛みを共に感じ、それから感情が生まれる過程を共有するのがツバメの直観だが、そこから発展する複雑な思考までは追跡できない。似たような直観を持つ妹は逆で、感覚刺激で生まれた感情が、外界に発されていく方の過程を主に感じ取るため、ツバメよりも洞察力が鋭いが、共感の深度としては浅い。  だから今、先を続けられずに沈黙した汐音の中で、整理できずに溢れる胸のざわめきを、ツバメはもっと感じ取れるはずなのだ。あまつさえ、ツバメと汐音は命を共有しており、誰より近い共感者となり得るはずだ。  それなのに、何もわからない。物理的に傷付けられた痛み以上に、何かが汐音の胸を締め付け、汐音自身が感情の自覚を拒んでいる。  そして汐音から分けられる命も、当然ながら拙くなっていく。それと同時に、ツバメの中で、汐音という存在そのものが薄まっていくようにも感じられた。  この状況がわからない苛立ちは、せっかちな水葵が一番強かったらしい。汐音が「いだーっ!」と叫ぶほどきつい止血をしながら、乏しい情報の中で水葵なりの的確な状況整理を切り出していた。 「つまり貴方は、何故か山科燕雨の内にいる使徒の『神』に遊び半分でちょっかいを出した。そして返り討ちにあい、神隠し――『神』に命を奪われかけたところ、山科燕雨への『力』の供給を減じて動きを止め、相討ちに持ち込んだと、そんなところですね」  ……遊び半分じゃ、ないもん、と。子供のような涙目で返しつつも、水葵の見立てに汐音も大体異論はないようだった。
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