_①

6/10
前へ
/175ページ
次へ
 燕雨の中に何がいたのか、燕雨自身はさっぱりわからないが、汐音はそれをどうにかしたかったらしい。いつからそんなものがいたのかわからないが、何故今、このタイミングで汐音はそれをしようと思ったのだろう。  わけもわからず、倒れ伏すままの燕雨が全く解せないように、水葵も怪訝さを露わにしている。 「何故山科燕雨の内に、貴方を害せるほどの『神』が宿るのですか。人工の精霊亜種にそこまでの神性があるなど、普通では到底考えられません」  相変わらず厳しい言ではあるが、燕雨自身が人外生物としては無力な部類に属することは、この場の誰もがわかっていた。問題は一つ、燕雨が異常なほどの憑依体質であることだろう。それによって燕雨は汐音だけでなく、沢山の人外生物や、もしくは人間霊の力を借りて、燕雨だけではできないことを可能にする特技があった。  それでも「神」という至高の存在の一端を降ろすとなると、低次に在るものの憑依とは勝手が違う。普通の依童(よりわら)は、悪魔や天使といった次点の高次生物を、身の程に合ったレベルで憑けるのが精一杯なのだ。 「先天的に、余程の神性を持ったものでなければ、神降ろしの器とはなり得ません。何かの『神』自らが、器の限界による神威の制限を覚悟した上で、わざわざ有限の器を選ばなければ」  そんな事態はそうそうないと、高位の悪魔たる水葵はよく知っているようだった。人間の罪を請け負った救世主でもない限り、どの神が好き好んで、弱い生き物の体を使うかということでもあるのだ。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加