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「山科燕雨を選んだ『神』の使徒が仮にいるとして、そんなものがこの弱小な器に憑けば、山科燕雨の意識など即消えるでしょう。それが『神隠し』です、我が君」
「ナギの言う通りだと思うけどさ。そもそもツバメは、神隠しで消えなかったから、オレの『鍵』になったんだけど?」
応急処置はされたものの、やはり座り込んだまま動けない汐音は、顔だけを不可解そうにして水葵を見つめている。
「ツバメが神隠しにあった時、オレとの命の繋がりがその前に既にあった。それを辿って、ツバメはオレの所にやってきて……ツバメとしてオレの命を受け取って、『鍵』になったのに?」
汐音が珍しく、いたって真面目な目付きなせいか、水葵は無表情になって黙り込む。
汐音の中には、水葵の言に対する納得と、それに反する現状への疑問が渦巻いている。水葵の中には、どちらかというと戸惑いの感情が強くあると、燕雨の直観には伝わってきた。
「山科燕雨が……神隠し?」
水葵の当惑は、燕雨にもよくわかった。何故ならそれは燕雨自身も、おそらく水葵も、思ってもみなかったことで――
「そんなものに、いつ、あったのですか? ……山科燕雨は」
「……え?」
「燕雨」も水葵と、まるで同じことを思った。
神隠しとは何だろうか。そんなことが、己の身にはあっただろうかと。
「それに、山科燕雨が貴方の『鍵』とは、どういうことですか。山科燕雨は、貴方――数多の翼の悪魔、氷輪翼槞の翼の強奪者に過ぎないでしょう。貴方が寛大だから翼の力を使えるだけであって、それ以上でもそれ以下でもないのでは?」
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