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 朝が苦手であることと、朝に起きれないこととは違う。  どちらかと言えば夜型である山科燕雨は、折り目正しい山科家に養子に行く前、棯紫雨(うつぎしぐれ)である頃からそう思っていた。起きる必要がないなら寝ていればいいが、必要があるなら体調など関係なしに起きる。  何をするにもそれは同じだった。どんな状態であれ、動くべき時であるなら、体が動く限りは動く。  だから山科家に行った後に、体調が悪い日はちゃんと休めと怒られた時は、大きく首を傾げたものだった。 ――父上の悪い真似をしちゃ駄目! 父上とアナタじゃ、そもそも頑丈さが違うんだから!  山科家は元々、棯紫雨に剣を教えてくれた師の一家だ。人外生物としては軟弱な紫雨を、仕事で留守がちの両親よりも根気よく鍛えてくれた。武士は食わねど高楊枝、という師の姿勢は紫雨もすぐに馴染めるもので、師弟関係は良かったと言っていい。  紫雨が自身を鍛えていた目的、大昔に攫われた妹と再会し、助け出すことができてからは、師と同じ仕事に就く前提で養子に迎えられた。実際には、師の大事な一人娘である「(つぐみ)」と仲睦まじい紫雨を師が警戒し、婿でなく養子だと言い張っての縁組らしいが……。 ――これからは本当に、一緒に生きていくの。……アナタはうちに、帰ってくる義務があるんだからね。  いつも凛とした才女の鶫が、紫雨の養子入りが決まった際に、頬から耳まで赤く染めて、両目を潤ませて紫雨と手を握り合ったこと。その時の温かさを、今も紫雨――山科燕雨は、忘れられない。
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