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 高校に行くだけの同居人が、淡い夢にひたる燕雨を叩き起こし、見送られながらさも不機嫌そうに、安アパートを後にしていった。 「燕雨は最近、たるんでいます。私にだけ早起きさせるのは、フェアではないと思いませんか」 「っても……俺、夜も働いてるんだけど」 「私が誰のために、高校になんてわざわざ通ってると思っているんですか。猫羽(ねこは)が心配、それだけのために、こんな遠方に駆り出されている私の身にもなってください」  この日本で妹を見守ってくれている同居人、橘水葵の言う通りなので、燕雨としては頭を下げるしかない。しかし正直なところ、あまり水葵を送り出す姿を見られたくない。  燕雨がよくバイトをさせてもらう駅前商店街では、水葵が燕雨の伴侶だと勘違いされている。高校生相手は犯罪だろうというつっこみと、何て美人な彼女なんだとやっかみを受ける。 「美人って言っても……人形、なんだけどさ」  水葵は燕雨に「力」を分けてくれた悪魔の、姿を模した人形に宿る別の悪魔だ。ドラゴンと言える本来の姿のままでは、妹である猫羽のいる高校に通ってもらえない。当然のことながら、怪物を相手におかしな気分が起こるはずもない。水葵が本気を出した時の迫力は、先程までのような小言の比ではない。  それでも水葵と燕雨の共同生活を、鶫はこっそり不満そうにしていた。そろそろこの妹を見守る潜伏も潮時だろうかと、燕雨は思い始めている。
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