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 燕雨は燕雨で、不思議と、どうしてその谷空木がそこにあるのかよくわからなかった。 「……キレイだったから、折って帰ってきたんだ。でも……」  雨降花(あめふりばな)、または葬式花の異名を持つそれを、そうして逆さまに吊るしたのは燕雨ではない。おそらく水葵でもないと、炯と同様の違和感が燕雨の内にも広がっていく。  首を傾げた彼の様子を見て、大人びた顔で笑う炯は、あっさりと話題を変えた。 「それにしても、疑わしきは滅せよ、不安の芽は即キルの殺伐少年だった紫雨が、こんだけ丸くなってオレは何よりだなぁ」 「……」  三人で布団の上に座り、炯がぽむぽむと、燕雨の頭を楽しそうに撫で叩く。 「オマエみたいになまじ弱いバケモンだと、隙あらば抹殺。じゃないと誰にも勝てないもんな。そういう意味では、最初から弱い生き物が共存する仕様の、こっちの世界の方が肌に合ってんじゃねぇ?」  妹を助けようと、手段を選ばず必死だった過去。否定できない燕雨はバツの悪い顔をするしかない。そこに更に、鴉夜が追い打ちをかけてきた。 「お願いだから、こっちではそんな短慮は起こさないでね。貴方を討伐するなんてことになれば、色んな方面に恨まれるのはごめんだから」  鴉夜は様々な世界において、その場所での秩序を壊す存在を管理する仕事に就いている。連れ合いの炯ですら管理対象で、なかなか気楽には生きられないのだ。  そんな鴉夜に、気苦労をかけるつもりはない。人間のようにこうして暮らしているのも、余計な揉め事を起こさないためだ。  しかしそれは、燕雨の発案だっただろうか。そんなことを思いつけるほど、燕雨は丸くなっていただろうか。
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