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 炯と鴉夜の顔を見た瞬間から、胸を締め付けていた妙なモヤモヤは、時間がたつごとに強くなる一方だった。  気を抜けば、今にも泣いてしまいそうだ。ちょうど近所から猫の鳴き声が聞こえてきたので、わけのわからない高ぶりを抑えようと、燕雨は自ら話を逸らした。 「なあ。この近くでたまに、多分人間に殺された猫の死体が見つかるんだけど……ああいうのは、鴉夜は討伐しないのか?」  きょとん。と、炯と鴉夜が目を丸くする。燕雨は普段、あまり自分から喋らないのだ。わざわざ口にして尋ねたほどの内容は、自分で思った以上に気になっている事柄なのだと、二人の反応を見てから自覚する燕雨だった。  燕雨は特別、猫好きなわけではない。それでも無性に、その事態に対しては、何もできないことが歯がゆかった。  鴉夜は難しそうに考え込んで、燕雨のそうした嫌悪感を汲んでのことか、珍しく申し訳なさそうに返答してきた。 「あたしもそういうのは、気分が悪いけど……人間の世界で人間がすることには、手は出せないの、ごめんなさい」 「……」 「鴉夜はあくまで、人外担当の使徒だからなあ。まあ、そーいう人間の醜さも、悪魔っちゃ悪魔って言えるんだけどな」  わしゃわしゃと、今度は鴉夜の頭を撫でた炯に、何よ、と鴉夜が赤面する。炯が思わずそうするほどに、鴉夜まで少し落ち込む話だったらしく、燕雨は反省する。  しかし、炯がその後続けた言葉に、燕雨の中で何かの歯車がかちりと音をたてた。 「その手の悪魔は、人間にフツーに備わったもんでさ。具現し出すときりがなくて、しかも結構、倒すのも大変だし、悪魔成分を失った人間もふぬけるしで、誰にもあんまりいいことないんだよな」
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