_3年前

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 二人目の子供が無事に一歳の誕生日を迎えた時、音戯(おとぎ)詩乃(しの)は現在仕える神に感謝をせずにはいられなかった。  十六歳で産んだ一人目の娘は、詩乃が愚かにも運命を変えたばかりに帰らぬ人となった。夫と娘は二人で事故に合い、夫は即死だったが、四歳の娘は意識不明の重態が続いた。  この小さな体で助かるわけがない。取り乱してしまった詩乃は、実家が仕える「神」の力、その中でも外法を使い、娘を生かそうとした。それが娘と同じ年の幼女の魂を入れ替え、本来なら生き延びたはずの娘の体を死なせてしまうとも知らずに。 「通りゃんせ……通りゃんせ……この子の七つのお祝いに……――」  娘の魂を引き受けた見知らぬ病弱な幼女を、詩乃は遠目に見守っていた。しかし幼女が七歳となった時、その病体はこれが天寿だと、幼女の守護天使が死出の迎えに来た時には絶望で死んでしまいそうだった。  最初の夫がカトリックであったため、詩乃は家を捨てて洗礼を受けた。だからその不思議な来訪者を守護天使と呼んだのは詩乃の独断だ。  「守護天使」は人間にはない白緑のふわふわした髪で、人間のように苦しげな紅い瞳で、詩乃にその愚かさを告げた。 「魂を入れ替えられなければ、詩乃さんの本当の娘さんは生きてたはずです。でも詩乃さん……娘さんは違う方法で、もう一度生きるチャンスを与えられてます」  その時の詩乃は、現在の夫となる男性と出会っており、二人目の子供を身ごもっていると言われた。その子供はそのままでは流産するが、一人目の娘の魂をその胎児に遷せば、記憶はなくなるが娘は再び産まれることができる。  紅い瞳の天使がそうして娘を助けてくれたことを、詩乃は神に感謝して祈りを捧げていた。
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