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 久しぶり――と。そう言うのがこの場合、適切なのかどうか、今の燕雨にはわからなかった。 「オマエは……『時雨』?」  暗闇の中で、きらりと一瞬、ソレの金色の目が光る。  燕雨の旧名、紫雨の由来である紫の目で観えるのは、チョーカーをつけてもそれが限界だった。  くすりと、ソレが小さく笑ったことで、暗い空気に澱みが生まれた。  ソレの目に映る燕雨は、銀色の髪に青い目をしている。燕雨の目に映るソレはまだ暗闇の内に居る。その燕雨の視界がソレにわかっているのも、互いに同じ「直観」でわかる。  ソレは昔、燕雨の存在を不秩序として狩ろうとした使徒なのだ。(うつぎ)紫雨は燕雨でなく本当はソレになるはずで、だからソレが自らと同じ直観を持ち、そして違う「時雨」であると覚えていた。  「時雨」は燕雨の様子を窺いながら、徐々に闇から抜け出し始める。  どうやら本気で、話をする気があるらしいと、ソレにも伝わったのだろう。燕雨に応えるように、嘲る声色で時雨が口を開いた。 「……意外、だな。オレのこと、知ってくれてるんだな、アンタは」 「……?」 「この最新の世界線では、オレは欠片も存在していないんだよ。オレがアンタと会ったのは、時空を更新する前の、どちらも存在する世界でだから」  よくわからないが、それで時雨は闇中から出きらないようだった。チョーカーをつけた燕雨が、本来視れるはずのないものを、無理に視ているというのが正しいのかもしれない。
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