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 ちょっと帰ってくる。異世界とは本来、そんなに気軽に行き来できるものではない。  あくまで橘診療所が特殊なのだ。夜診も終わる時間帯に、無理を言って外来に通してもらい、そこから繋がる世界へと、あっさり燕雨は故郷の土を踏んだ。 「すっごい久しぶりだけど……うまくいくかな?」  そのまま帰った目的を果たすために、人間界では出せなかった人外生物の証を、黒い背中に大きく具現させる。  翼の悪魔から過去に奪い、燕雨の命を救ったコウモリのような三枚の左の黒い羽。右にはこれも、昔に別の敵から奪った透明の翼を一枚生やし、左右で白玄(しろくろ)の翼を広げる。  これで飛べるかに不安は残ったが、考えても仕方ないので、いびつな翼で地上を飛立つ。  行先は一つだ。この翼をくれて、棯紫雨を山科燕雨にした悪魔に、燕雨は会いに行かなければいけない。 「もうアイツくらいしか、多分いないし」  燕雨が探していた答は、結局見つかっていない。何か欠けたものがあるのは仕方ないが、その負債を引き受けたのが、燕雨だけとは思えなかった。 「『オレ』が欲しがりそうなものなんて……鶫か猫羽か、アイツ、だろ……?」  水葵の助けも、悪いことはないのだが、支払う代償が少々面倒くさい。  他に燕雨が影響を及ぼし得るものは、燕雨の命を救った悪魔に他ならない。燕雨への負債がどんな形で表れるのか、確認しにいかずにはいられなかった。
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