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 翼の悪魔がずっと引きこもる、この世界での「天国」に、燕雨は何とか拙い飛行で辿り着いた。人間の言う天国とは違い、天に浮いているだけの国だが、この世界で神に纏わる重大な機能のある天空島だ。  妹のために人間界に行くにあたり、水葵の派遣や、悪魔の戸籍で部屋を借りてもらうなど、翼の悪魔には色々助力をしてもらったが、悪魔自体は普段はここで番人の使徒をしているはずだ。  悪魔が燕雨の命を救ってから、三年の歳月をかけて燕雨を鍛えた場所が、この「天国」でもある。懐かしの場所へ、燕雨が降り立ったことをすぐに感知し、疲れてへたり込んでいた燕雨の元へ、程無くしてその悪魔は現れてきたのだった。 「――久しぶり。まさかとは思ったけど、何で帰ってきたの、オマエ?」 「…………」  夕暮れの青白い三日月の下で、鋭い硬質の黒髪をかきあげ、当惑するような悪魔が燕雨の前に立っている。  燕雨がこの地まで来たのは、もう五年ぶりくらいになる。本来ここには、翼の悪魔の結界が張り巡らされており、悪魔本人以外は誰も入ることができない。燕雨だけは、悪魔の翼をもらっているので、同一者と感知されて例外になるのだ。 「猫羽ちゃんを見守りに、人間界に行ってるんじゃなかったっけ? 何か向こうで、困ったことでも起きたの?」 「…………」  燕雨の前にちょこんとしゃがみ、呑気そうに尋ねる秀麗な青年の姿には、特に異変はありそうにない。  どうしてこの悪魔の無事を、確かめに来るほど急に気になったのか、ここにきて燕雨自身にもわからなくなりつつあった。
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