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以前と変わらない悪魔の様子を見て、とにかく燕雨は、気が抜けてしまった。そうとしか言いようがない。
「……アンタ……汐音って、知ってる?」
「――? なに、急に何の話?」
頬杖をついて首を傾げる姿に、嘘の気配は微塵も観られない。燕雨が急にやってきた理由を含め、本当にわけがわからないらしい悪魔に、燕雨は最後の、直観の置き土産を口にするしかなかった。
「そいつ……俺の相方……っぽかったんだけど」
座り込みながらも燕雨は顔を上げて、悪魔の灰色の目をまっすぐに見て言う。苦渋を隠せないその様子に、悪魔も真面目に見つめ返す。
凛とした悪魔の目線に、燕雨はその後、自分でも覚えのない言葉を続けることになった。
おそらくそれは、燕雨に消え残った、「彼」の望みで――これで本当に、全てが分かたれてしまう彼らの岐路だった。
「……ごめん、って。力になれなくて、ごめん……助けてくれて、ありがとうって、俺は言わなきゃいけなかったんだ」
燕雨には全く、覚えがないこと。それなのに、涙が出そうになってしまった。
誰の思いか知らないが、誰かが勝手に、燕雨の体を使って言っている。誰に言っているのかすらも、わからないというのに。
悪魔はずっと、不思議そうにしながらも、何も茶々を入れずに、黙って燕雨の声を聴いていた。
そして、燕雨が以前から不思議に思う、何の根拠もない勘の良さで、燕雨にその答を返したのだった。
「……よくわからないけど。お前のために存在する奴がいて、そいつがもしも、今の言葉を聞いたら……多分、笑ってると思うよ」
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