_3年前

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 それでもこんなことは、本当に赦されてよいのだろうか。毎日それを畏れない日は無かった。運命を変えて良いのは多分、神だけであるはずだ。  七歳で死ぬ運命だった病弱な幼女の方は、娘の魂と引き換えに重態だった娘の体に遷され、四歳で死んでしまったのだ。誰も知ることはないとしても、三年早く死なせてしまった罪はどう償えば良いのだろう。  己の罪を嘆く詩乃に、紅い瞳の天使はもう一つの贈り物を残していった。  新しく生まれる娘が神の祝福の元にあれるように、夫の実家である教会に神聖な結界を施してくれたのだ。もしも娘が神の御心に沿わない存在であれば、この聖域を造った意志を以て、世にも不自然な娘が存在することの咎は自分が引き受けると。 「だから詩乃さんは、七歳――四歳で亡くなったあの子のために祈って下さい。詩乃さんにその心がある限り、この結界は詩乃さん達を守り続けます」  娘は本当に無事生まれるだろうか。生まれても生きられるだろうか。自分はこんなに醜い罪人なのに赦されて良いのだろうか。  そう思わない日はなかった。そして天使の言った通り、その心こそが教会を聖域として維持し続けている。夫に頼んで両親の牧師夫婦と教会に同居し、娘を教会で育てていると、驚くくらい娘は最初に生まれた時と同じような成長を見せた。本当に娘が再び生かされたのだと実感するばかりだった。  だからこそ一歳の誕生日のすぐ後、ある静謐な雨夜に、その「神」を名乗る少女が現れた時には、詩乃は心から震え上がった。  ついに裁きの時が来てしまった。神秘の力を受け継ぐ詩乃の眼には、ヒト喰いカラスに視えた黒い髪と眼の少女。  もう紅い瞳の天使は助けに来てはくれない。夜更けに聖堂で娘を抱きながらがくがく震える詩乃の元に、カラスの少女は容赦なく近付いてきた。
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