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 ……? と、理解に困って顔をしかめた燕雨に、悪魔はお決まりのあくどい笑みを浮かべた。 「だってさ、お前みたいな死にたがりが、助けてくれてありがとうなんてさ。ここにいる時もずっと、いっそころして……みたいに嫌そうだったしね、お前」 「……」  悪魔は普段、ほとんど人情味を見せない無機質さのくせに、ヒトを茶化す時だけは妙に楽しそうにする。古くには、死んだ人間の子供を悪魔として復活させた存在らしく、背が多少伸びていても、全身からは幼さが抜けない。  人間の頃の記憶はないらしいが、紫雨に手を差し伸べた甘さは、人間としての心なのかもしれない。 「何というか、たまたま凄い翼を押し付けられたから、使いこなせないのは情けない、くらいのモチベーションだったよね、お前」 「……別にそれは、今でもだけど」  悪魔のくれた翼を、使いこなすための三年の修行は、燕雨――当時の棯紫雨にとって、想像を絶する辛さだった。死を覚悟していた紫雨は、思いがけず与えられた第二の人生に、大きく戸惑っていたのも本当だ。 「鶫ちゃんの元に帰りたければ、頑張って強くなれと言っても、ツグミには別にオレなんていらないし……とか言ってたっけ」  妹を助けるために、様々な無茶をして生きた紫雨は、間近に寿命が迫っていたといっていい。それ故に傍若無人にヒトも殺したし、戦う手段も選ばなかった。  そこから思いもかけない形で、命を繋いだ紫雨にとって、この悪魔は恨むべき相手だ。咎人であっても生きろと、紫雨に己が人生を振り返らせたのだから。  何の権利があって生きろなんて言うのか、とその時紫雨が噛みついたのは言うまでもない。
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