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 せっかく助けた妹や、鶫の存在は、紫雨が悪魔に縋ってまで生きようと思う理由にはならなかった。  だからこの悪魔は、頼んだ覚えもないのに、勝手に紫雨を生かしたに等しい。  その頃の気持ちを思い出したら、溜め息が出てきてしまった。悪魔はそれにもけらけら笑いながら、よいしょと腰を下ろして、彼の回復を待つ気になったようだった。 「まあ、そうだろうね。お前には地上の蜜より、天上の救いの方が必要だとは思うよ」 「……」 「鶫ちゃんは、空っぽなお前を埋めてくれるだろうけど。別にお前がいなくても、幸せになれる子だろうし」  鶫には別に、自分がいなくてもいい。そう言った紫雨の心も、悪魔にはその時から、よく理解できていたらしい。  実際そうだろうと、現在も彼は思っている。鶫は心も体も彼より強く、どんな環境でも自ら願いを持てる人間だろう。無理に守らなくても、共に生きる相手が彼でなくてもいいはずなのだ。 「人ってそういう、しなやかなものだよね。だからお前は、お前にしか埋められない相手が欲しかったのかな」  紫雨の望みは、いつの世もそうだ。誰かに自分の穴を埋めてもらうより、誰かの穴を埋めたかった。ほとんどできることもない弱い化け物のくせに、是非を問わず、何かに使える自分でありたいという、どうしようもないエゴイストだ。  妹を助ける使命を終えて、もう何もできない役立たずだと、紫雨は苦痛ばかりだった人生を投げた。その命を拾ったのがこの悪魔だった。
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