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うだうだと悩んでいる内容が、悪魔にしては良心的なので、つくづくヒト殺しの彼の毒気が抜ける。
なので彼は至って気楽に、両腕を枕に、ごろんとその場で寝転んでいた。
「……とりあえずは……アンタの答が出るまでは、俺、ここにいるつもりだから」
「――え? って、猫羽ちゃんはどうするのさ?」
そろそろ引き上げようと思っていた。というのは言わずに、彼は最も彼らしい結論を、淡々とそこで自覚する。
燕雨はいつも、腕に巻く黒いバンダナをほどくと、横着な体勢のまま、悪魔の方に投げてよこした。
「アンタにやるよ。大事な形見なんだ」
誰かが誰かの特別になる。その最も簡単な形は、何か大切なものを共有すること――
現実的には、同じ場所で同じ時間を、同じ目的を持って過ごすこと。彼には大昔に、そういう無二の相方がいたから、本能的にその自然な方法を知っていた。
唯一の古い相方のバンダナを、わわっと慌ててキャッチした悪魔は、無意識に受け取ってしまった時点でもう負けている。
たとえ目に見える水面から姿が消えても、水底で花咲く時を待つ雨久花のように、その心は消えてはいない証なのだと。
こうして彼は、人間界の方では行方不明扱いとなってしまう。「鍵」を得て身軽になった翼の悪魔と共に、派手な悪魔狩りを始めるのは後々の話だ。
雲隠れした彼のせいで、橘診療所から援助が出ることになり、一人で高校に通い続ける水葵には、再会した時にさぞ怒られるだろう。
自力で獲得したわけではなさそうな、悪銭とも言える恵まれた生活。これで本当に良かったのか、おそらく今後も自問は尽きない。
それでも彼は、できることを続けていく。もしも「神」の怒りに触れるならば、その時にこそ、この咎人の終わりを願って。
雨久花 了
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