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一緒に行こう、と。
ある黒い翼の使徒が、ヒトを悪に貶める手口を、青銀の鳥の悪魔は知っていたはずだった。
原始的な動物達が争う時も、理由は大体同じだ。生き物は常に、温かさを求めて生きているのだ。
悪魔だって同じ手を使う。「悪」への誘いは何処にでもある。それが悪魔からであれ、悪の意を持つ「神」からであれ。
ヒトによって、求めているものが違うのは確かだ。懐であれ関係であれ心であれ、「寒い」ことをヒトは嫌う。
わかっていながら、ヒトを宿す悪魔は隙を見せてしまった。造られた通り悪魔でいれば、そんな望みを持つこともなかったのに――
全ての行き違いの源。奪われたその青銀の鳥は、自分が迷える「ヒト」だと知らなかったのだ。
「くそ、アイツ……心臓直に持ってくなんて、やっぱり、ヘンタイだった……」
誰もいない、彼誰時よりも真っ暗な礼拝堂で。
冷たい祭壇にもたれて座り込み、白い学生服の胸元が赤く破れた黒髪の悪魔が、ごぼりと小さな呼吸で咳込む。
「でも、それが、あいつのためなら……仕方なかった、の、かな……」
喉元に少ない血が絡み、全身からどんどんと、零れ落ちていく体温。
体の中心に隙穴の空いた姿は、まさに「錠」だと、低い天井を見上げながら悪魔は自嘲した。何しろこれは、悪魔が「鍵」と呼ぶ相手につけられた傷であるのだから。
半ば以上は死者である化け物、吸血鬼という類の悪魔は、元々心臓の力で生きてはいない。だからすぐに絶命はしないが、やがてくる夜明けの陽で灰に還ることを避けられない、紛れもない致命傷だった。
「それにしても、よくもまあ、バレてたもんだ……『汐音』の座が、オレ達みたく翼でなく、一人だけ心臓とはね……」
呑気に感慨にふけってみるが、悪魔はもう、体を起こすこともできなかった。足下から広がる暗い影は、影の内にいる間は人払いができる悪魔の「力」だが、その範囲も少しずつ狭まってきている。
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