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悪魔の最期の場所がこの教会になるなら、それはそれで別に良かった。悪神という黒い翼に侵された「鍵」が言っていたように、ここは唯一、悪魔が探していたものの遺跡と言える場所だからだ。
いつもは悪魔の左翼の核となる、透明の珠が血まみれになり、力無く転がる手の上に落ちている。これは過去に、悪魔がバカな天使にあげたプレゼントだ。今ではもういない天使の痕跡を探す内に、悪魔はここに辿り着いたと言ってよかった。
たった一つ残された形見を、この場所に持ってこれただけで上々だろう。天使の結界が残される地で、このまま悪魔が滅びていくなら、もう肩の荷を下ろしても良いということなのだ。
透明の珠に語りかけるように、悪魔は薄い微笑みと共に尋ねる。
「そもそも、とっくの昔に、殺された身だし……何が何でも生きてるフリは、もう、いいだろ……?」
悪魔が悪魔として、この世に生まれ出た理由。遠い日に我が子の蘇生を望んだ人間の母はとっくに世界を去っている。
それでもこれで良くはないと、悪魔はわかっている。悪魔には果たさなければいけない役目があり、この程度の些事で使命を止めるわけにはいかない。
それはおそらく天使も望まないことで、他にも多少なりと困る仲間がいる。それなのに、そのことをわかっていながら、悪魔の中のヒト――「汐音」はヒト喰いカラスの手を取ってしまった。これまで悪魔を動かしてきた、全てのしがらみに背中を向けて。
悪魔には死神の異名があり、悪魔がいた世界の天国の扉を守る仕事があった。それ故の「処刑人」の使徒だ。
天国の「錠」であった悪魔は、せめて天国に還る力だけでも回復させなければいけない。天国を閉じたまま眠ることしかできないだろうが、ここで灰に還っている場合ではない。
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