6人が本棚に入れています
本棚に追加
靑には四つあると、「力」を色で視る古い仲間はかつて言った。
青、蒼、碧、神。はて? と彼は首をひねり、最後の「神」は何だときくと、自然界の不思議の総称で「あお」とも読むのだという。
「特に『天の神』とくれば、稲光を主にさすらしい。漢字は不思議だな、でもそれなら蒼天の『神竜』が雷使いなのは、やっと納得がいく」
外面は和風、内実は近代的な家で、家主である心配そうな「心眼」の仲間が言ったこと。彼を現在拘留する「神竜」について、以前教えてくれた話を反芻する。
少し前まで居候していた彼、竜牙烙人は、十五年以上前に負った古傷の呪いで今にも死にかけている。それなのに「神竜」とやらに大事な相手を二人もかっさらわれた。
だから今、彼は大空の中で、彼の双子がかつて設計した「天龍」という飛空艇にいる。古代の遺物を再現されたその船は、「神竜」一派の根城なのだが、古の禁忌に触れる「不秩序」な建造物の上、彼の戸籍がある国のクーデターにも絡み、事態は悲愴なほどに複雑化していた。
「ああ、もう……何処を向いても味方がいない上、さらにシグレまで攫われてきた、だと……」
船尾の甲板で冷やかな風にふかれ、雲の傍らで独りごちる。人質をとられているとはいえ、彼はこれまでの仲間を全て裏切る形になってしまった。
今の彼は「神竜」の言いなりの身だ。心眼の仲間の養子が連れて来られても、助け船を出すこともできない。そもそも死に損ないの彼の存在自体も「神竜」には人質で、彼がどちらの陣営についたところで何一つ戦力になりはしない。
彼自身について、「力」を視る仲間は、本来青の本質の持ち主だと言っていた。青は「正しさ」の意を持ち、自然界を広くさす漠然とした気色だと。それなのに彼は後から蒼やら紫やらを模し、それは彼が持つ「赤の鼓動」の侵蝕のためらしく、その呪いこそ彼を殺す古傷でもある。
最初のコメントを投稿しよう!