◆正史過去:青炎;Side R.

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 赤は本来、聖なる色だろ? 心眼の仲間にそう尋ねた時には、良きにつけ悪しきにつけ苛烈なのだという答が返ってきた。 「それでもって、極端な動の赤と静の青を混ぜたら蒼か紫、堕ちた(あか)の魔物が誕生するワケか……となるとそこに白を混ぜたピンクな奴らは、さしずめ魔性に光まで併せ持った破綻者か?」  冷え込む甲板にいると体調が悪化する。硬い床に座り込んでも生気が削られていく。  神竜が囲う「ピンク」の娘を縛り付けるため、目を付けられたのが彼だ。この根城にいさえすれば何をしてもいいと言うので自由にふらついているが、適当に与えられた自室にはあまり帰りたくなかった。 「サキと直接話させろよ、クソ……トウカをあてがっときゃ文句言わないだろって、魂胆が見え見えなんだよ、お前……」  自称神竜は心眼の仲間曰く、彼の鏡たる存在から抜け出し、勝手に行動している「力」らしい。そのため彼と異性の好みが同じで、大事だからこそ遠ざけた若い仲間……桜色の髪の(サキ)を一派に引き入れてしまった。  娘も昔から彼を大事に思っているので、彼がこの船にいることが娘を縛る鎖になる。彼も娘と、その霊獣がここにいるので来るしかなかったように。  桜色の娘は霊獣族という、「力」を投影した獣を己の分身とする化け物の最後の一人だ。普通霊獣族は一体の霊獣しか持たないが、娘は本命の白黒猫の他にもう一体の霊獣を持っており、それが今彼の部屋に置かれているので彼は帰りたくない。  何故ならその霊獣は、霊獣のくせにヒトの形をしている。それも彼が長年探し続けた、黒いヨメにそっくりな少女の姿で。 「そりゃーサキだけだろうさ、トウカを具現させられるのは……でも何とか見つけてみれば、その世界ではシグレにぞっこんって、何の禍根だそれ」  あの狼少女め、と。彼の寝台で紅いストールにくるまり、眠りこけている長い黒髪の姿を想う。  心眼の仲間の養子、シグレが連れて来られたのは狼少女(トウカ)のためだろう。本来なら黒い狼の霊獣である少女が、現在ヒトの形をとれているのは、シグレが呼び覚ました心というのだから。
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