◆正史過去:青炎;Side R.

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 かつて一度、彼と取引をしておきながら消えたヨメは、何でも屋を名乗る黒ずくめの同年代だった。  初めは体だけの関係に近かったが、段々と情の移ってしまった彼が、何でも屋ならうちに永久就職しろ。そう取引を更新せんとした時、日頃は感情を見せなかったくせに、とても痛ましげな顔で彼女は消えてしまった。 ――その願いは、叶えられない。  己が誰であるか知らず、ヒト型で自律して動いていた霊獣。当時に彼の体を心配して同居していた桜色の娘も、それが自身の霊獣だと知らなかった。  赤の鼓動という呪いに蝕まれ、先の無かった彼にとって、桜色の娘は決して手を出さないと決めていた聖域だ。その捌け口に黒い狼女を利用したのは確かだが、桜色の娘もその後、彼の鏡という存在に出会えたので、結果オーライのはず。そう思っていた矢先の自称神竜の出現だった。 「何で……サキにはダメでも、サクラはトウカを具現させられるんだ?」  神竜一派は、桜色の娘が己に封じ続けていた悪魔(サクラ)を目覚めさせた。そして悪魔の娘が狼少女をヒト型で世に戻し、彼のそばにつけさせた。それで彼は、ヨメが結局桜色の娘の霊獣だと確信する羽目になった。  これまでそれは否定したい推測だった。霊獣とその主は本来五感を共有するものであり、桜色の娘と狼女にそれはなかった。あれば彼は桜色の娘に手を出したのと大差ないので消えたい。  狼女が狼少女になったのがシグレとの関わりと言うが、その詳細は悪魔にもわからないらしい。それでも少女の姿は明らかに、シグレと釣り合いをとった形と思われた。 「それをオレの近くに置きますか、嫌味か……今、トウカに触れたらサクラに届くのか? 届いたらどーするつもりなんだ、あいつ……」  悪魔(サクラ)はその狼少女(トウカ)を、自分の妹だと言った。しかし狼少女は彼との取引も記憶があると言い、出会った頃の何でも屋より随分しおらしくなり、彼が狼女に見ていた本質が現れたようだった。
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