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彼の「力」の大半は、既にシグレの妹に行き先が決まっている。彼に紫の気を与えた神泉の精霊と、それに同化した彼の双子について、仲間と同じ「心眼」を持つ桜色の娘に遷移を頼んであった。そもそもシグレの妹を起こした張本人だからだ。
しかし呪われた赤の鼓動の行き先はない。彼と共に滅んでもらう所存だったが、蛇の悪魔が考える最悪の場合、それはシグレと黒い鳥を守る最後の砦になると言う。
「お前さんも鴉夜も、紛れもない『青炎』。氷と熱、形は違うが、お前さんの鏡は見事な氷、そして鴉夜は熱の使い手。時雨は鴉夜の青炎の翼を持つ精霊崩れだから、お前さんに合う赤火なら適合する――それが悪神への対抗馬になる」
青炎というのは、青の字に月が入っているように、「月属性」の別名だという。月は太陽の光がなければ輝かないように、他者の力を己のものとして使う地獄の鬼火と言われている。
彼の本質は青だとかつて言われた。それは常に誰かの影となり、確かにそこに在りながら、単独では姿を見せることのない有り得ない存在。
だからこそ、何かに心を燃やし続ける赤の鼓動があっての彼だった。
自称神竜と敵対し、桜色の娘を取り戻そうとしている鏡の彼は、彼がかつて失ったらしき蒼の魂――氷を扱う力を持っている。たとえ魔性の紅を帯びた蒼でも、それがなければ鏡の方も己を保てない白い存在だ。力の通り、氷のように心は凍てついている。蒼の魂に桜色の娘を求める未練があるから、生き物として動けているとも言える。
桜色の娘に関しては、その蒼の鏡に任せるしかない。彼と違って寿命も近くない悪魔なので、おそらく何とかしてくれるだろう。
蛇の悪魔と取引した後に自室に戻ると、寝台の上で狼少女が膝を抱えて黒い頭を埋めていた。彼が何を決意してきたのか、リアルタイムで現状を悟れてしまう彼女の不思議な目敏さは、出会った頃から相変わらずだった。
「……泣いてるのか、あんた」
「…………」
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