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シグレと――炯と関わるな、と彼女は言った。それでも彼を変えられないことを、わかっているとも。
彼の決意は、他ならぬ彼女を想ってのことだからだ。シグレだけでも残すためには、消えゆく彼の鼓動を受け継いでもらうしかない。そしてこの先、狼少女にはシグレが必要なのだと、彼も感じていた現実を蛇の悪魔は口にした。
ほぼ初対面の蛇の悪魔を、取引する程度に信頼したのには理由があった。
アレは彼と同じく、女のために運命を狂わされる性質だ。そして同じ悪魔の性を持つ桜色の娘と、狼少女を知っていると言った。狼少女も、桜色の娘もその内の悪魔も、消えない未来は存在するのだと。
――お前さんがサクラを残したいなら、それは正解だと思うぜ。
彼も思っていた。何故今この時に、狼少女が戻って来たのかを。
「……なあ。あんたがオレの前から消えたのは、サキのためだったんだろ」
「……」
寝台の中心で蹲っている狼少女を背に、彼も端に座る。
「サクラがサキになったのがあの時だった。それであんたはヒト型をとれなくなった……オレは今のサクラの方が、本当はよく知ってる気配だ。オレと一緒にいた頃のサキは、サクラだったんだろ」
桜色の娘は、彼が黒い狼女と知り合った頃には、今と同じ薄紅の眼をしていた。伴う霊獣も濃い灰色で、白黒猫を扱う青空の眼で桜色の髪になったのは、狼女が消える時のことなのだ。
「あんたも炯も、サキやシグレを守ろうとしてる。でもオレは、あんたとサクラを守りたい」
「……」
「多分シグレは苦しむから、助けてやってくれ。……勝手は承知してる」
ぴたりと、空気が止まったようだった。音も出さずに、震える狼少女が背中にしがみついた。
「わたしは、もう一度……アナタに、触れたい」
これを置いていくのかと思うと、決意があっさり挫けかけた。
未練だらけなのは悪くなかった。しかし遥か後に彼の願いが、狼少女と旅をする時雨によって覆されることを、この時には知る由もない。
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→時雨と狼少女
https://estar.jp/extra_novels/25709890
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