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この時のことは、後から考えれば、詐欺だとしか言いようがない。
そもそもからして、悪魔の翼を奪った彼が悪い。悪魔も確かに、甘さ故に翼を取り返さずに、あまつさえそれで彼を生かす道をとったが、奪われた翼を必ず取り返す義務――彼を殺すべき筋合いなどない。
それでも悪魔は黙り込んでしまった。あまりにお人好しの悪魔は、鶫や妹をいずれ失う彼の悲哀を、見て見ぬふりはできなかったのかもしれない。
長い時を生きる悪魔自身、いつかはそうして、現在の仲間達と別れる日が必ず訪れる。この「天国」に引きこもり続ける限り、現実味はなかっただろうが、彼と悪魔は同じ穴のムジナでもあるのだ。
うーん……と。あぐらをかいたまま、両手を足の間の地に着け、お座りをする犬のような手付きで、不服そうに悪魔が彼を見返していた。
「……えっと、ですね。オレには多分、大切なヒトというのを作るのが、第一に難儀で……そもそも、一応オトコなので、オトコを相手にはしたくないわけでして……」
どうやら悪魔が、一番ためらっているのは、そんなどうでもいい事柄らしい。あくどいわりにはすれていないと、彼の力みが一気に緩んだ。
「……そういうことじゃないし。『大事なヒト』って、別にそういう関係だけじゃないだろ?」
これまで出会った多くの仲間、全てが等価に大切らしい悪魔には、確かに難題ではあるのだろう。
どうすれば誰かを「特別」にできるのか、その答は、一朝一夕に見出せるものではない。でもそんな事情は、生来強引な彼には知ったことではなかった。
ぶつぶつと悪魔は、本気で悩ましいように、下を向いて考え始めた。
「オレと同じ吸血鬼にするとか、お前を大事だと想う別人格を無理やり造るとか、やりようは色々ありそうだけど……鶫ちゃんに怒られないかな、それ……」
「…………」
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