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「桃花が消えるって……オレに言う必要あったのかよ、それ」
「悪神」の翼を持つ黒い鳥は、何も嘘を話したわけではない。ただ、黒い鳥と「悪神」の狙いが真逆にあっただけだ。黒い鳥が去ってすぐ、彼はその罠に気が付いていた。
桜色の娘を神竜から離したい彼を、黒い鳥は味方につけられると踏んだはずだ。しかしそれでは狼少女が消えるなら、彼は桜色の娘にも背を向けなければいけない。まさに彼の全てを裏切ることになる。
まず間違いなく、「悪神」は悪魔を存続させるつもりだろう。そうしなければ彼の大事なものがまた消えると釘を刺しに来た。
おそらく黒い鳥の弱点となるのがシグレの存在。彼がどう動けば悪魔を消さずに、桜色の娘側である黒い鳥も保つことができるのだろう。
ひとまずシグレ――を名乗る、炯に接触してみるしかなかった。
それこそ狼少女が止めた、彼の滅びの道であると知りながらも。
「ふうん、そんでさ。オレの話に乗る気はあるん? お前さんは」
「何度も言わせるな、炯。そうでもしなきゃ、その躰……シグレを解放しないだろ、アンタ」
袖の無い黒衣に丈の短い上着を羽織る金髪の少年は、心眼の仲間の養子の体を勝手に使う蛇の悪魔で、黒い鳥の探し人だ。その事情自体は少し前から知っており、名前が炯ということだけが初耳だった。
「アンタの宿る逆鱗はシグレの短刀に遷して、オレのとどめはアンタが殺せ、炯。オレはこのまま悪神の言いなりになるしか、桃花を守れないんだから」
そうすれば蛇の悪魔は遠からずシグレから出て行く。その約束を条件に、悪魔が望んだものは彼の命。最早消えかけている彼の最後の「力」を、シグレに遷すことで黒い鳥を守る賭けをしたいと言う。
「……悪いな。お前さんの『力』が、時雨と妹以外に渡ると最悪だからな」
「アンタこそ、鴉夜を助ける算段はあるのか。このままじゃ誰もが犬死にするぞ」
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