すべては逃避から

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一人暮らしをすることで自分の自由時間を確保できたことに、何よりも幸せを感じた。 このおかげで、私は思う存分に趣味を満喫できた。 私の好きな本を本棚にならべ、私の好きな音楽を聴きながら家事をしたり、雑誌を読んだり、好きなことを勉強したりする時間が心地よかった。今でも一人の時間は嫌いではない。 大学生の最初の頃は、この環境に満足していた。 私の世界は、一気に広がったような気がした。 友達と呼べる人が何人かでき、大学のゼミやサークルに所属するようになってしばらく経ったころ、またとしても逃げ出したい衝動を覚えた。 「このままで私はいいのか。」 「このままではダメだ。もっと自分を変えたい。」 「いつまでも同じ場所にはいられない。」 大学の仲間たちや所属していた団体が悪いわけではない。 すべては私自身の問題。 勝手に現状に物足りなさを感じてしまっただけ。 水を求めてさまよう魚のように、またしても心のなかでもがいていた。   都会に行ったら、何かが変わると思っていたが、私自身と私の現状は何も変わっていないのだと少し悲しく感じだ。 またしても新しい世界を求めるようになった。 大学卒業後、就職活動でたまたま内定をいただいた会社に入社した。 大学生にでもなればやりたい仕事ぐらい見つかると思っていたが、予想外になかなか見つからなかった。私の好きなことや趣味を仕事にしたいと思った時もあったが、「私なんかが作家やアーティストになれるなんてありえない」と思っていた。 それに、田舎者が憧れる都会で一人暮らしをしているくせに、母の呪縛から逃れることができなかった。 相変わらず、母は私に「良い子」であることを求めていた。 「せっかく大学の法学部に行ったのだから、弁護士や公務員になりなさい」と。 またしても、母は私の人生のなかに入り込んできた。 母から逃げるように東京に行ったつもりなのに、心の奥底で私自身が母から離れられずにいるのか。 法学部に行ったからといって、私は法律に関わる仕事に就きたいと微塵も思っていなかった。 とりあえず、大学を卒業したら社会人として働こうと思ったので、都内の民間会社に入社することに決めた。
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