ーphase1・2108年8月15日/東京ー

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ーphase1・2108年8月15日/東京ー

生温い風が身体に吹き付け、澄良のざらついた肌をじわりと汗ばませた。 夜明けも近い時刻だというのに、ねっとりと密度の濃い空気が寝静まった街にたちこめている。ひび割れた耐熱舗装からも熱が伝わり、足元から蒸し焼きにされるような不快さに澄良はたまらず顔をしかめた。半世紀以上昔、政府が推奨した耐熱アスファルトもこの暑さの前には用を為さないようだった。 かつて繁栄を極めたビル街は、いまや廃墟同然の建物が乱立するだけの『ゴーストタウン』となり果てている。耐用年数を過ぎ、いつ崩れるかわからないビルの隙間を危なげなく通り抜け、澄良は目的地まで気持ち歩を早めた。生まれ故郷であるこの街は、目をつぶっても歩けるほど知悉しているので迷うことはない。しかし今日だけは万全を期して急ぐ必要があった。1分でも遅れるわけにはいかなかった。 今日のために何年も耐え抜いてきた。少しの失敗も許されない。 廃ビルの隙間から覗く月明かりを避けながら、澄良は夜の街を忍び足で駆け抜けた。                   ***
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