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そしてその長い首をゆらりと曲げて「どうもこんにちは」と挨拶をした。挨拶されたからには挨拶しかえさねばなるまい。今時の若いものは、など言われるのは心外である。「こんにちは。急に抱きかかえて申し訳なかったです」ぺこりと頭を下げると、アルパカは恐縮したように頭を振った。
「ところで、なぜこんなところに?」
「ぼくは水たまりアルパカなので……?」
当然のことを聞かれてどうしようと思いました、みたいなことを言いたいのか、質問を質問で返された。ふむ。
「たいへん申し訳ないのですが、ええと水たまりアルパカさん?」
「なんでしょうか?」
「水たまりアルパカとは一体、何なのでしょう」
「えっ、ご存じない」
「はぁ、浅学なものでして、申し訳ない」
「見たところ学生さんだと思ったのですが、学校で教わっておられませんか」
「すみません、僕の専門は近代文学なのです。中井英夫の研究しかしていないのです。アルパカもビクーニャもグアナコも、区別がつかないのです」
水たまりアルパカは息を飲んで沈黙した。そして息を吐き出すように「今時の若いニンゲンは」と呟いた。結局言われてしまった。
「は、恐懼の至りで……」
「いいですか、学生さん。液体あるところアルパカあり、ですよ。ありとあらゆる液体にアルパカは存在するのです」
「……はあ」
そうだったのか。そうだったのか?
「それにしては、今まで僕はアルパカを見かけたことがありませんでした」
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