水たまりアルパカ、上洛す

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「それはそうでしょう、そうでしょう。我々とてそうそう見つかるようには暮らしておりません」 「そうでしたか……ではなぜ、今日は堂々と?」 「本日はぼく、ミカドに呼ばれているのです」 「みかど」 「ええ、ゴショに。この長雨を止めねばなりませんから」 誇らしげに胸をはりつつ、水たまりアルパカは言った。 確かにここ数日、京都には雨が降り続いていた。普段はさらさらと流れる琵琶湖疏水も、ごうごうとカフェオレ色をしている。 「ゴショとは、京都御苑のことでしょうか?」 京都御苑、通称、御所。 「そうですそうです。貴船神社から、たかおかみのかみ、もおいでになっているそうなのです。かの神がお山をお出になるのはとても珍かなことですよ」 「そうでしたか」 よく分からないままに、とりあえず相槌を打った。とにかくこのアルパカが御所へたどり着けば、この鬱陶しい長雨が止むらしい。それは助かる。ふむ。 「良ければ送りましょうか、僕。家近いんで、チャリとってきます」 「えっ、いいのですか。実のところここからゴショまで歩くのは、少々難儀だなと考えていたのです」 「それでは少し待っていてください」 僕はすぐに近くにあるアパートへ取って返し、雨合羽を羽織って自転車に乗り哲学の道へ戻った。水たまりアルパカはぼんやりと疏水の水を眺めていた。     
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