2人が本棚に入れています
本棚に追加
「それはそうでしょう、そうでしょう。我々とてそうそう見つかるようには暮らしておりません」
「そうでしたか……ではなぜ、今日は堂々と?」
「本日はぼく、ミカドに呼ばれているのです」
「みかど」
「ええ、ゴショに。この長雨を止めねばなりませんから」
誇らしげに胸をはりつつ、水たまりアルパカは言った。
確かにここ数日、京都には雨が降り続いていた。普段はさらさらと流れる琵琶湖疏水も、ごうごうとカフェオレ色をしている。
「ゴショとは、京都御苑のことでしょうか?」
京都御苑、通称、御所。
「そうですそうです。貴船神社から、たかおかみのかみ、もおいでになっているそうなのです。かの神がお山をお出になるのはとても珍かなことですよ」
「そうでしたか」
よく分からないままに、とりあえず相槌を打った。とにかくこのアルパカが御所へたどり着けば、この鬱陶しい長雨が止むらしい。それは助かる。ふむ。
「良ければ送りましょうか、僕。家近いんで、チャリとってきます」
「えっ、いいのですか。実のところここからゴショまで歩くのは、少々難儀だなと考えていたのです」
「それでは少し待っていてください」
僕はすぐに近くにあるアパートへ取って返し、雨合羽を羽織って自転車に乗り哲学の道へ戻った。水たまりアルパカはぼんやりと疏水の水を眺めていた。
最初のコメントを投稿しよう!