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一声かけ、抱き上げて自転車の前カゴに入れた。
「雨はとても大事ですが、ひどくふるのはいけません」
アルパカはそうひとりごちた。僕の自転車は丸太町通りを西へとひた走る。滑りそうになるタイヤに苦心しつつ、やがて鴨川を越えたあたりで、アルパカがふと口をひらいた。
「良ければ、ですが」
そう言ってアルパカは振り向いて、僕をじっと見つめた。
「見て行きますか? 雨が止むところを」
「いいのですか?」
「そうなさい、そうなさい、学生さん。あなたは頭は良いようですが、物を知らないようですから」
「恐縮です。では、後学のために」
「良きこころがけ」
寺町御門から入ることにした。僕は自転車からおりて、アルパカをカゴに乗せたまま押して進む。どこへ向かえばいいのか聞こうとした矢先、風に乗って雅楽の調べが聞こえてきた。
「あちらの、音楽の聞こえる方へ」
ジャリジャリと雨に濡れた砂利を踏みしめながら進む。するとたくさんの白い鷺が次々に御所内へと飛んでくるのが見えた。鷺は一度高く舞い上がってから、ゆったりと低空へ下りてきて、ちょうど僕の目線の高さをヒウヒウと飛ぶのであった。
「水たまりアルパカさん、鷺が」
「鴨川から来たのでしょう、カササギの代わりに」
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