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「一人で食うよか良いだろ? ……あんま引きずんなよ」
曖昧に笑みを返し、真新しいドアの外に出る。
ケイが言っていたのは、俺の前の彼女のことだ。なんとなくで付き合い、なんとなくで別れた。それを大ごとに捉えているのは、よほど俺の表情が冴えなかったからだろう。
けれど、原因はそこじゃない。
あの家は妙に居心地が悪いのだ。腹の底が冷えるような感覚と、睨まれているような落ち着かなさを感じた。
もちろん二人の前でこんなことは言えない。どう説明していいかも分からない。もしかしたら二人を羨み、心のどこかで妬んだがゆえの妄想なのかも。だとしたらみじめなものだと自嘲する。
とにかくあの家から出たくて、俺は一人帰路についた。
明日香から連絡があったのは、その三日後のことだ。
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