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右奥の少女に視線を移す。昼の話では活発とのことだったが、今は随分と大人しい。おかっぱ頭を下げたまま何かを見つめている。右手の人差し指で、しきりに床の上を指さしていた。
「帰ってきたって、夕飯は外で済ませてばっかり。私のごはん、まずいのかなあ」
「そんなことないだろ」
手料理を食べたこともないのに、つい否定してしまった。明日香が一瞬驚いたような顔をして、すぐにふわりと笑う。
「……ありがとね、総介」
「いや……なんか思い当たる節はないのか?」
思わず目を逸らす。きららを見ると、まだ俯いて床に指を押し付けていた。
「とにかく最近文句が多くて、うるさいとか臭いとか虫が気になるとか……帰ったら文句ばっかり。掃除ちゃんとしてるんだけど、なんかときどき生臭いらしいのね。私は全然分からないか
ら、疲れてるせいじゃないかって思うんだけど。本人に言っちゃうときっと怒るから」
「うるさいってのは?」
何度見てもきららは大人しすぎるくらい静かだ。それにしても、あの子の周りだけ床が黒ずんでいるのはなぜだろう。
「夜に話し声が聞こえるみたいで、寝不足気味なんだって。私は寝てて全然気づかないんだけど」
お隣さんの声だろうか。明日香の方が神経質そうなのに、意外だった。
「あとは、ここ虫が多いんだよね。どこから入ってくるんだろ。網戸閉めてるのに」
「破れてるんじゃないか?」
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