そっと、添えるよう

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そっと、添えるよう

「休んじゃいな」  ママが、なんでもないことのように言った。  明日の遠足を、休めって。 「遠足なんて疲れるだけなんだから。休んじゃいな」  ママが、なんでもないことのように、言った。  お弁当は作ってくれない。お金を持たせてくれないから、おやつも買いに行けない。  泣いた。  泣いて、寝た。  朝。  ママは、まだ帰っていない。わかってる。  冷蔵庫をあさる。  ビールとマヨネーズしか入っていない。そんなのわかってる。  散らかったテーブル。ママが食べ残したスナック菓子をかき集めて口に入れた。 「神様なんていない。神様なんていない」  そしゃくしていると、涙が出た。呑み下す。  ママなんて、ママなんて――。  と、鼻をすすった時だった。 「どうしたね?」  と、声をかけられた。  えっ?  反射的に顔を上げると、おじいさんがいた。おじいさんが立っていた。  白い髪に、白いひげ。白い布を巻きつけたような格好。 「だれ? 大声出すよ。ケーサツ呼ぶよ」 「落ち着いて。わたしは、ただの神様だよ。うん。神様なんだ」 「神様? なに言ってんの」  バカじゃないの? バカじゃないの?  でも。 「本当に神様なんだったら、あたしをなんとかしてよ。今日は遠足なのに」  遠足なのに。こんな、こんな。 「お弁当も、おやつもない。ひどいよ」 「……そうか。よし、わかった。やってみよう」 「えっ?」  あたしは、おじいさんが頷くさまを見るばかりだった。 「とにかく、まずは出来ることをやっておこうか」 「えっ。……うん」  探してみると、リュックサックとペットボトルのお茶、ビニールシートはあった。 「それじゃ、行こうか」  着替えたあたしはリュックサックを背に乗せ、おじいさんに連れられて外に出た。  おじいさんは古いアパートの一室を前に立ち止まった。 「ここだよ」 「ここ?」  ベニヤのはがれた戸を見る。うちよりひどいかもしれない。 「ここで、どうするの? あれっ?」  おじいさんはいなくなっていた。  少し迷ったけれど、他には思い浮かばなくて戸を叩いた。 「はい……」  と、出てきたのは、灰色のジャージを着たおじさんだった。 「な、なにかな?」
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