そっと、添えるよう

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「あたし、今日は遠足で。お弁当とかなくて、困ってるんです」  言ったあたしを、おじさんが見詰めてくる。  変な子だと思われたらどうしよう。 「あっ……。わかった。うん、わかった。入って」  おじさんは、あたしを招き入れた。とりあえず、招き入れてくれた。  おじさんの部屋は、案外片づいていた。ただ、古びた感じがした。テレビ台の上にあるのは、ラジオだった。 「お握りなら用意出来る。それでいい?」 「うん」  そう返事する以外ない気がした。 「よし。やるぞ」  おじさんは、かしこまってラップフィルムとアルミホイルを取り出した。 「あ、朝ご飯は食べたの?」 「うん。ちょっとだけ」  スナック菓子のカスをね。 「わかった」  言いながら、おじさんは白いご飯とワカメの味噌汁を用意してくれる。そして、戸棚からサバの味噌煮の缶詰――サバ缶を出してきてくれた。 「食べながら待ってて」 「うん」  せっかくなので、いただくことにした。  おじさんは、またかしこまって、ラップフィルムにご飯を乗せ、醤油をまぶした削り節を具にしてお握りを握った。  ひとつ、ふたつ。  ラップフィルムに包まれた大きなお握りがふたつ出来た。それを並べて置いて、しばらく見詰めてからアルミホイルで包む。  おじさんは、またサバ缶を出してきた。  ……お弁当のおかずに、ということなのかな? 「あの。お握りだけで、いいよ」 「そ、そう。うん、わかった」  おじさんは、サバ缶を戸棚に戻した。 「おやつは用意してあるの?」 「ううん。なんにもない」  素直に首を横に振った。 「お茶はあるんだけど」 「そう。お茶はあるんだね」  おじさんが頷いた。 「それじゃ、これを持って行くといいよ」  おじさんは、戸棚から幾つかのお菓子を出してきた。失礼だけど、おじさんには似合わない、かわいいお菓子だった。 「貰い物だけど。よかったら」 「ありがとう。うれしい」  あたしは、お握り弁当とお菓子をリュックサックに仕舞った。  神様って、いたんだな。  目をこする。紛らわすように食器を下げ、置き時計を見る。集合時間が近くなっていた。 「もう行かなきゃ」 「それじゃ……。気をつけて」 「うん。ありがとう。……ありがとうございました」
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