1.出逢い

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1.出逢い

()に焼き付いたのは、白皙(はくせき)を流るる(みつ)の如き (しずく)であった。 ()りむいたのか、 たくしあげたスカートから(のぞ)膝小僧(ひざこぞう)には赤く血が(にじ)んでおり、それを蛇口から流れる水で洗い流している所だった。 少女は制服に水が跳ねないようにと気を遣い、代理教師として赴任(ふにん)して来たばかりの大野(おおの) 政博(まさひろ)の視線には、まるで気付かない様子だった。 無理もない。 放課後の校舎裏など、滅多(めった)に人は立ち寄らぬのだから。 そうした条件も相俟(あいま)って、 かの人は若い娘であるというのに、ひどく無防備(むぼうび)であった。 普段は決して不躾(ぶしつけ)眼差(まなざ)しを女性に……… それも生徒になど向ける事のない大野であるが、その時ばかりは、少女の細くしなやかで柔らかな(あし)に釘付けになるしかなかった。 女性的な脚線美の白皙(はくせき)を流るる水の一滴一滴が、春の陽光(ようこう)を浴びて、一層、(つや)めく。 一通り流し終えた後はコンクリートの流し台に腰掛け、無造作(むぞうさ)に脚を投げ出した。 (つゆ)払いの(ため)無邪気(むじゃき)に脚を揺らめかせる様子は何処か幼子(おさなご)のようでもあり…… 先程の官能の色を()びた成熟した気配とは相反(あいはん)し……… それが余計に、禁断の―――― 見てはいけないものを見てしまった時のような……… 心許(こころもと)なくも、(あや)しい(うず)きを大野にもたらしたのである。 大野にとって人生を揺るがす、この出逢いは、かくも鮮明であった。
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