1.出逢い

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それでも間違いなく彼女が あの少女に違いないと確信出来たのは……… 彼女特有の 所作(しょさ)のしなやかさにあった。 普通の家庭に育ち、特別、裕福という訳ではないようだが……… 彼女の所作(しょさ)には不思議と気品があった。 そうした品の良さは、大いに彼の興味を誘った。 年頃の小煩(こうるさ)い娘が苦手な大野にとって……… 重要な要素であった。 そうした魅力は……… 開放的に脚を(あら)わにした、あの時でさえも消える事はなかった。 優雅に、緩やかに……… 妖しく揺らめく白皙(はくせき)は、今でも鮮やかに脳裏に浮かぶ…………。 恐らくは、彼女の持つ繊細さが、そうした独特の優美さを生み出しているのだろう。 大雑把とは程遠い…… けれども、神経質という程ではない 彼女の絶妙なデリカシーが、その立ち居振舞いには現れている。 気取った様子は無く、常に控えめで…… それなのに不思議と人を惹き付ける気品と、時折見せる艶やかさが同居しているのは、 それ故であると大野は考える。 クラスの中では決して人目を引くような 言動を行わない…… 物静かで、慎ましやかな少女が、 あの時ばかりは人目無き解放感から、 ああも(ほが)らかに振る舞っていたのであろうかと思うと……… 自分だけが知る、そんな彼女の姿に(いと)おしさを感じずにはおられなかった。 初見(しょけん)の印象とは違う彼女の姿に 幻滅する所か、 (むし)ろ………… 地味な自分にも相通(あいつう)ずるものさえ感じ、より一層(いっそう)の興味と親しみを感じるのであった。 彼女の表面を覆う繊細さと…… 奥深くに秘めた奔放さ――――― その両方を自分だけが知っている。 大野は、誰も知らぬ彼女の秘密を 自分だけが所有しているという愉悦(ゆえつ)に酔いしれた。 淡々とした日々を繰り返す内、 退屈という言葉の意味すら忘れかけていた 自分が………… この事に、えも言われぬ甘美な興奮を感じている。 大野は、自分の中で何かが大きく変わりつつある事を実感していた。
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